安藤 秀行さん:国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL)(選挙支援)

国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL) 配属  職位:UNV District Electoral Advisor

1.UNVに参加されたきっかけと経緯について教えていただけますか?

最初はNGOのメンバーとして緊急援助、平和構築の分野に入ったのですが、海外で活動しているとさまざまな場所で国連のPKOミッションと出会うことになります。そうした国連の実際の活動を見ると、やはり国連だからこそできる支援というのがあります。たとえば今回の選挙支援の活動などはその最たるものだと思うのですが、こうした国連の活動に何らかの形で自分も関わりたかった、ということが理由です。

実は最初はアフガニスタンの選挙のためのUNVということで声をかけていただいたのですが、治安の問題でそれが延期になってしまいました。再開されるのをただ待っているのももったいないと思ってほかにUNVが必要とされているところがないかボンのUNV本部に問い合わせをしたところ、ほどなく「シエラレオーネでも選挙支援のためのUNVを募集するがどうか」という打診がありました。シエラレオーネについては紛争が激しかったころにイギリス(シエラレオーネの旧宗主国)に滞在していたのでメディアを通じてある程度の知識はありましたし、とくに地域に関するこだわりもなかったのですぐさま応募して採用となりました。今回シエラレオーネに集まってきた他の選挙UNVのなかにも同じような「アフガニスタンにいくはずだった組」がやはり何人かいて、「シエラレオーネが終わったらそのままアフガニスタン行きかもしれないね」などと話していました。

2.主な仕事の内容は?

今回のUNVの活動はシエラレオネの地方議会(District Council)選挙の支援です。シエラレオーネの紛争の原因はいろいろあるのですが、そのひとつに中央政府に権限が集中して地方がないがしろにされてきたことへの不満があるといわれています。長い間機能を停止していた地方議会を再建することで地方への分権を促進し、そうした不満を解消することでシエラレオーネをより安定した国にしよう、というのが今回の選挙の目的でした。

国連のおこなう選挙支援にはさまざまな方法がありますが、今回の国連シエラレオネ支援ミッション(UNAMSIL)の選挙支援は、シエラレオーネ政府の選挙委員会が主体となって選挙を運営し、国連はあくまでもサポート役、という形でおこなわれました。われわれUNVの仕事はシエラレオネ選挙委員会(NEC)の地方支部(District Electoral Office)にたいするアドバイザー、というものです。アドバイザーと言っても机に座って口だけ出しているわけではありません。NEC,特に地方支部はさまざまな設備、特に選挙のための資材の輸送手段、通信手段が不足しているため、やはりUNAMSILがこのようなハード面でもサポートをおこなわざるをえません。UNVは時には自分の車に選挙の資材とNECのスタッフを積み込んであちらこちらを走り回ることにもなります。同時に自分の赴任したUNAMSILのフィールドオフィスの中では選挙部門の代表としてUNAMSILの他の部門と連絡を取り合いながらUNAMSIL全体としてのNECに対するサポートを調整する役割も受け持っています。

3.活動中何か特に苦労されたこと、逆に楽しかったこと(充実していると感じたこと)などはありましたか?

最初に苦労したのは「いかに中央選挙委員会からの指示・連絡を末端に伝えるか」ということでした。Districtの下の行政単位として伝統的な部族社会を基礎とするchiefdomがあるのですが、このレベルまで情報を伝達する手段がまったくといっていいほど存在しないのです。電話なし、無線なし、毎日定期的に運行する公共輸送手段もなし、のないないづくしで、唯一の確実な連絡手段といえるのは選挙委員会のスタッフが自ら出かけて指示命令書を手渡しするのみ。ところが選挙委員会の地方支部が持っている車は一台だけで、chiefdomまでは片道2、3時間はざら、という状況では数あるChiefdom全てに指示を伝えるだけで2,3日かかってしまいます。選挙というのは投票日が決まっている以上どうしてもスケジュールが過密になるのですが、そのうえ単なる指示・連絡に莫大な時間をとられるのは大変でした。

最後のほうで苦労したのは村落の伝統的な指導者との関係です。シエラレオーネの中央と地方との間にはすでに述べたように溝があるわけですが、それは地方の内部でも同じことで、地方の州都で採用されて村落に派遣された選挙スタッフが村の人々からよそもの扱いされたり、最悪おいだされたりすることがありました。

楽しかったのは選挙日の翌日、選挙スタッフがそれぞれの投票所から帰ってくるのを迎えた時です。UNAMSILのトラックの荷台からスタッフが笑顔で手を振りながら「アンド~かえってきたよ!!」と声をかけてくれるのがとてもうれしかったですね。

4.安藤さんにとってUNVだからこそ得られた体験、と思われるのはどのようなことでしょうか?

国連「ボランティア」と言いますが、UNVの正式な名称がUNV “Specialist”であることからわかるように、現場では「プロ」としての仕事の質を求められます。そういう面では他の国連職員との扱いの差はまったくありません。ただしUNV同士ではやはりお互いUNVだからこその助け合いみたいなものがあって、そこから来る連帯感みたいなものはいい思い出になると思います。

5.UNVを目指す人たちに何かアドヴァイス等があれば。

UNVに限った事ではないと思いますが、「自分は何を、なぜやりたいのか」という問いに対してしっかりとした答えを持つことです。特にUNVの活動する場所というのはたいていの場合赴任国の首都ではなく地方、当然そこでの生活環境も先進国と比べると著しく劣る場合がほとんどです。

また正直な話、自分の周囲にいる国連職員は間違いなく自分より良い待遇を受けています。

そうした環境でUNVとしての任務をまっとうするにはやはりこうした自分なりの考えをもつことが必要だと思います。