山中 智博さん:パキスタン
世界で活躍する日本人国連ボランティアからの現地報告(7)
パキスタン唯一の日本人国連ボランティアとして奮闘中の山中智博さんからの現地報告を紹介します。
山中さんは、外務省の平和構築人材育成事業に参加した後に、日本政府が拠出している洪水後の復興支援事業の管理・運営に携わり、総勢15人の国連ボランティア・プロジェクト・スタッフを束ねています。
(写真)UNVプロジェクトのメンバー。シンド州の州都カラチ市にて(右端が筆者)
パキスタンという国
パキスタンはインド半島の西北に位置する、イスラム教を国教とする共和国です。東をインド、西はアフガニスタンに接することもあり、近年は特に紛争やテロの頻発する危険な国といったイメージが先行しがちかと思います。確かにアフガニスタンとの国境付近ではテロ組織との戦闘が連日繰り広げられていますが、一般のほとんどは情け深く人をもてなすことが大好きな人々で、親日家が多いことにも驚きます。ちなみに今年2012年は、日本とパキスタンの国交樹立60周年の記念の年に当たります。
パキスタンでの暮らし
私は首都のイスラマバードで生活していますが、パキスタンでは現在、保安上の観点から国連機関に勤める外国人は、国連が定めた安全基準を満たした住居と地域に限って住むことを義務付けられています。イラクやアフガニスタンほどではないのですが、外国人を狙った犯罪から身を守るため、やはりなるべく夜の外出、特に一人歩きは控える必要があります。
日々の食事は、パキスタンの国民食といえばやはりカレーです。鶏や羊の肉を玉ネギ、トマトをたっぷりの油で炒めてつくったソースでからめ、ご飯やナン、チャパティと一緒に食べます。内陸部では夏場、最高気温が50度を超えるほどの酷暑の国。インドやバングラデシュ、スリランカに比べるとそれでも辛さは控えめなようですが、集団礼拝のある金曜日は特別な“朝カレー”まであるなど、スパイスの効いたカレーはパキスタンの人々の日々の原動力です。
(写真)パキスタン・シンド州北部、サッカル市の現場視察にて。同市では夏場、最高気温が50度を超える
パキスタンと国連ボランティア計画(UNV)
国連ボランティア計画はパキスタンにおいて、2005年から活動を進めてきました。というのもその年の10月、北部のカシミール地方を震源とする大震災で9万人を超える人々が犠牲になり、国連ボランティアは国連機関や非政府機関(NGO)を通じ日々、人道援助活動に当りました。しかしその後、政局の不安定化やテロ行為の激化によって国内情勢が急速に悪化し、20人以上いた国連ボランティアも2010年には数名を数えるまでにまで減少していました。そんな中、パキスタンは再び未曾有の天災、大洪水に見舞われました。
パキスタンと大洪水
パキスタンでは例年7月下旬から雨季を迎えますが、季節風がもたらす降雨によってこれまでにもたびたび、国の中心を縦断するインダス川の一部が氾濫することが報告されてきました。しかし、2010年と11年の2年連続でパキスタンを襲った洪水は過去最悪とされ、10年の洪水ではピーク時に国土の5分の1、イギリスの面積に等しい土地が水没し、結果、180万人もの人々が家を失い、1800人にのぼる命が奪われました。さらに、復興ままならない翌年の8月、今度はアラビア海に面する南部シンド州を中心に洪水が襲い、500万人もの人々がさらなる被害を受けました。
(写真)村人の調査に当たる国連ボランティア(左から2、3人目)。洪水によって多くの人々が生計を奪われた
国連ボランティアとしての仕事
パキスタンでは洪水発生直後から、日本を始めとする各国政府や国際機関が協力して緊急人道支援に当たる一方、国連開発計画(UNDP)パキスタン事務所では2007年から災害危機管理に重点を置き、政府機関とともに災害に強い国づくり、地域社会づくりを目指して活動してきました。そんな中、私はUNVプロジェクト・コーディネーターとして今年2月から、UNDPが行う洪水からの早期復興事業のひとつを担当しています(日本政府はこれら事業に総額5000万ドルを拠出)。
プロジェクト・メンバーは合わせて15人、パキスタン人国連ボランティアが12人、海外出身者が私を含めて3人です。過去2年の洪水では、想定をはるかに超えた甚大な被害に政府機関が対応しきれなかったこともあり、現在、パキスタン人ボランティアすべてが南部シンド州における災害管理庁 (Provincial Disaster Management Authority [PDMA] Sindh)本部や地域事務所などに常駐し、情報の収集や処理、管理能力の向上、政府機関と国際機関やNGOとの間での調整、危機管理計画の取りまとめなどに当っています。洪水に関する正確な情報の収集や分析、警戒情報の周知が重要なのはもちろんですが、いざという時に一人ひとりが災害から身を守る能力を身につけることを目指し、今後、地域社会、特に社会的弱者と呼ばれる人々を対象に防災訓練や啓もう活動も行っていく予定です。
国連ボランティアに興味を持っている人に一言
日本人が国連ボランティア、中でも防災や緊急人道支援分野での活動に従事することは非常に意義があることだと思います。さまざまな自然災害の脅威にさらされる中でも安定した社会や経済を維持し続けている日本。災害に強い町づくりの知識や技術はもちろんのこと、東日本大震災に際し、人々が配給のために整然と列をなし、悲嘆にくれながらも手を取り合って復旧に当たった姿はボランティア精神の体現以外の何物でもなく、パキスタン人に限らず世界各国の友人知人から、そういった国民性に学ぶ点が多いという声が数多く寄せられました。
Profile ———
山中智博(やまなか・ともひろ)
UNVプロジェクト・コーディネーター
UNDPパキスタン事務所(危機予防・復興ユニット)
関西外国語大学、米国ユタ州立大学(ジャーナリズム専攻)卒業後、三重テレビ放送、日系紙・日米タイムズ(サンフランシスコ)で記者として勤務。英国ブラッドフォード大学大学院(紛争解決学修士、哲学修士)卒業、同リーズ大学(カウンセリング専攻)でも学ぶ。この間、NGO日本紛争予防センター・パキスタン事務所、ブラッドフォード大学平和学研究科に勤務。平成21年度平和構築人材育成事業に参加し、2010-11年にかけて国連スーダン派遣団に国連ボランティアとして派遣。2012年2月から現職。三重県鈴鹿市出身。