伊藤 みちるさん:ガイアナ

世界で活躍する日本人国連ボランティアからの現地報告(9)

UNVは国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊(JOCV)事務局とパートナーシップを組み、日本政府の支援の下、毎年15人程度のJOCV経験者が国連ボランティアとして派遣しています。

ガイアナのUNV全体の管理・運営の重責を担うUNVプログラム・オフィサーの伊藤みちるさんは、このプログラムを通して派遣されている国連ボランティアの1人です。国際協力の現場での2年間の経験を持つ協力隊経験者の国連ボランティアは、受け入れ国連機関の現地活動に対して大いに貢献しており、国連ボランティアとしての任期終了後は、JICA、国連機関、NGO等の職員として引き続き国際協力分野で活躍しています。以下、伊藤さんの活動を紹介します。

(写真)イギリスのボランティア機関VSOと政府とのパートナーシップの下、ナショナル国連ボランティアとVSOの研究員がガイアナのボランティアセクターに関する調査を行い、ガイアナ初のボランティア支援プラットフォームが誕生しました。

ガイアナについて


1966年に英国から独立する前はブリティッシュ・ガイアナの名前で知られたガイアナは、正式名をガイアナ協同共和国といいます。スペイン語圏ベネズエラ、オランダ語圏スリナム、ポルトガル語圏ブラジルに囲まれた南アメリカ大陸唯一の英語公用語国です。歴史・文化・政治・経済は、伝統的に旧英領カリブ諸国とのつながりが強いものの、近年はブラジルとの交流が活発になってきています。国土は21.5万平方キロメートルで、国土の一割弱 (主に沿岸部) しか開発されておらず、熱帯雨林やサバンナが広がります。一年を通じ高温多湿で、主な産業はダイヤモンド、ゴールド等の鉱業、砂糖、米等の農業、広大な熱帯雨林を持続的利用した林業です。石油の埋蔵が既に確認されており商業化が期待されます。先住民族に加え、植民地時代にサトウキビ耕作の労働者としてガイアナに来たインド系、アフリカ系、中華系、ヨーロッパ系が交じり合う多民族国家です。


ガイアナの生活

私のガイアナでの生活は今回が2度目であり、1度目は2005年から2006年にかけて、JICAの専門家としてガイアナに赴任した夫に随行していました。首都ジョージタウンに信号機もエスカレーターも無かった最初の赴任時に比べ、今回は、車が溢れ、交通渋滞が酷くなったことを除けば、物資も豊富になり、新鮮な野菜とその種類も増え、格段に暮らしやすくなったと感じます。経済が発展し生活水準が上がり、家族帯同でのガイアナ赴任の形態が増えているため、在留外国人の人数が増えています。治安の面では、独立以前から続くインド系とアフリカ系の小競り合いが現在も時々政治的に利用され、事件に発展することはあるものの、凶悪犯罪が頻発することも、日常的な政情不安もありません。

国連ボランティアとしての仕事

私はUNVプログラム・オフィサーとして、ガイアナにおけるUNVの活動全般に責任を持っています。国連カントリーチームの一員として、他の国連機関の代表と共に政策協議を行いUNDAF(国連開発援助枠組)に沿った国連ボランティア派遣の機会を窺いつつ、UNVからの提言を行っているほか、ガイアナのボランティアセクターへの政策・提言・啓発活動等に積極的に参加しています。ガイアナは多くの中南米の国のように国連ボランティアが100人近く活動しているということはなく、私が赴任してから最大でも45人程度の規模での活動となります。

ガイアナのボランティアセクターは、社会経済開発への寄与や政策への影響に関する調査を行い、2012年3月に国内初のボランティア支援プラットフォームを設立しました。ボランティア機関やボランティア個人の専門分野などをデータ化し、ボランティアセクターの協調を目指し、更に法整備も進めて行く予定です。毎年国際ボランティアデー(IVD)には、40程度のボランティア団体と協力しイベントを行います。2012年のIVDに、UNVはScotiabank等の民間セクターから資金提供を受け「I Love Beautiful Guyana」プロジェクトを実施しました。これは環境保護やポイ捨て禁止等の啓発及びガイアナの自然美の再確認を謳ったプロジェクトで、まず写真と絵画のオンラインで投票を行う芸術コンテストを実施し、ガイアナ人をはじめ、ガイアナ人の海外移住者、更には世界各国の多くの人から投票を受けました。そして投票で選ばれた優秀作品5点をカードにし、クリスマスシーズンに販売して売上金をIVDの活動費として寄付しました。

ガイアナは近年、更なる戦略的ドナー協調及びボランティアセクターの協力の重要性を感じるようになりました。2012年には広域地域プロジェクトとして日本政府から支援を受け、UNVガイアナが、UNVトリニダード・トバゴ、UNVバルバドス、カリブ諸国政府、カリコム事務局、JICAシニアボランティア、青年海外協力隊、Peace Corps、Cuso、現地NGOを中心に協力を仰ぎ、カリブ諸国におけるボランティア活動の写真を集めた2013年用カレンダーを作成しました。これは2011年に同じように日本政府から支援を受け作成したガイアナ版カレンダーの広域版です。好評だったプロジェクトが更なる支援を受け、パートナーシップ規模を拡大していくのは嬉しいものです。

今後とも在ガイアナの国連機関や現地政府と連携を密にし、ガバナンス、環境、災害リスク管理、持続可能なエネルギー開発等、多くの社会経済開発分野で国連ボランティアが活躍できる機会を探っていきたいと思います。

国連ボランティアに興味を持っている方々に一言

私はJOCV平成14年度1次隊としてジャマイカに派遣された協力隊OGです。国連ボランティアではJOCV経験者枠を設けており、日本政府の支援の下、毎年15人程度のJOCV経験者が国連ボランティアとして派遣されています。JOCVの任期を終えてすぐに国連ボランティアになる人もいれば、進学や就職の後になる人もいます。JOCVとして培った経験は、現地のカウンターパートや国連スタッフと一緒に活動する際に必ず糧や自信となり役に立ちます。国連ボランティアに少しでも興味のある方は、まずは登録をされることをお勧めします。JOCVとは違い、家族帯同の赴任が可能な要請も多く、最低限の生活を送るのに必要な生活費(Volunteer Living Allowance)の他、家族手当を受けることもできます。

Profile ———————

伊藤 みちる (いとう みちる)
UNVプログラム・オフィサー
UNDPガイアナ・オフィス

99年大妻女子大学文学部英文学科卒、タイ王立大学にて講師として勤務後、02-04年青年海外協力隊に参加し西インド諸島大学ジャマイカ・モナ校にて活動。英国ウォーリック大学にて社会学修士号(専門:社会経済調査)、06年ガイアナの国際NGOにてHIV/AIDS及びジェンダー関連プロジェクト・コーディネーター、07-10年在トリニダード・トバゴ日本国大使館にて専門調査員として対カリコム諸国の経済及びマルチ経済協力業務を行う、英国レスター大学にて国際関係学修士号(専門:国際経済)取得、11年より現職。