西村 勉さん:タイ UNDPバンコク地域事務所 (都市計画)
国連開発計画(UNDP)バンコク地域事務所配属
(2002年10月~2004年7月)
職位:Associate Specialist/Public Private Partnerships for the Urban Environment
(アジア大洋州地区プログラムコーディネーター)
1.UNVに参加した動機と経緯について教えていただけますか?
1993年に青年海外協力隊員(都市計画)として中東のヨルダンに赴任して以来、海外・途上国との関わりの中で仕事をしてきました。
協力隊から帰国後勤務したコンサルタント会社を退職しカナダの大学院へ留学しましたが、卒業の時期も近まり次の進路を模索していた時に、UNDPバンコク地域事務所でUNVを募集していることを知りました。
特に国際機関での就職を第一に考えていたわけではなかったのですが、募集ポストの職務内容が自分の専門・興味のある分野であったこと、また、国際機関の一員としてこれまでとは違った立場で国際協力へ従事することができるという、新たな経験をするまたとないチャンスと思い応募を決断しました。
2.お仕事の内容は?
Public Private Partnerships for the Urban Environment (PPPUE)というUNDPのグローバルプログラムの、アジア大洋州地区のプログラムコーディネーターとして勤務しました。PPPUEは、途上国の中・小規模の都市をターゲットとし、官(主に地方市役所)・民(地元民間事業者、インフォーマルセクター等)、地域住民・NGOの3者の連携により、効率的で持続可能な都市生活インフラ整備を推進するプログラムです。また、生活基盤インフラ整備を通して、貧困層の就業機会、定期収入の確保をはかり、貧困削減に貢献することも目標としていました。南アフリカのプレトリアに同プログラムのマネージメントオフィスがあり、そこにタスクマネージャーを含めスタッフが常駐していましたが、私はアジア大洋州地区を担当するためにUNDPのバンコク地域事務所に派遣された形となりました。
具体的な仕事内容は、1)アジア地区で実施されていた5つのプロジェクト(インドネシア、ネパール、フィリピン、マレーシア、ラオス)の進捗管理、政策アドバイス、モニタリング、2)UNDP各国事務所、及び現地NGO等から提出されるプロポーザルへのコメント、アドバイス等を通した新規案件開拓・プロジェクト形成、3)プロジェクトにおける成果・経験・情報を共有するためのネットワーク構築、「官・民連携」を主要なトピックとした大学・研修機関向けのコースカリキュラムの作成・実施、ニュースレターの発行等、幅広い層を対象とした「官・民連携」分野での能力開発を推進するためのプログラムを担当しました。
3.UNVとして赴任してよかったこと、学んだこと。あるいは西村さんにとってのUNVとは?
UNDPバンコク地域事務所は、東北・東南アジア諸国のUNDP各国事務所が実施するプロジェクトへの政策アドバイス、計画立案段階でのサポート等、アドバイザリー業務を担っており、事務所には環境・エネルギー・貧困・ガバナンス・公共政策等の「アドバイザー」と呼ばれる専門家(UNDPのインターナショナルスタッフ)が常駐していました。UNVという立場ながら、さまざまな国籍、多種多様な価値観をもつ同僚・専門家たちの中で対等な立場で議論したり、共同で仕事をしたりする機会を得たことは、私自身大変刺激になり、見識を広め柔軟な思考を身につける良い機会・訓練の場となりました。
また、担当業務がアジア大洋州全域をカバーするというポストであったことから、いろいろな国のUNDP事務所、及びプロジェクトの担当者と接する機会が多々あり、その中で、厳しい国情の中で真摯に自国の開発・発展を考える現地スタップの熱意を感じることができたことは、今後の開発援助のあるべき姿を考える上で良い機会となりました。
UNVという視点で2年間の活動を振り返ると、担当業務の性格上、残念ながらVolunteerism、Volunteer Spiritを実感することはありませんでした。しかし、国際機関の一員として微力ながら国際協力の一翼を担うことができたことには満足しています。
4.UNVとして派遣中に苦労した点について教えてください。
大都会バンコク在住であったことから、生活面で苦労することはありませんでした。仕事面では、上述したようにタスクマネージャーが南アフリカに常駐していたことから、電話会議等の日本では馴染みの薄い方法で意思疎通、仕事を進めていく必要があったことから、赴任当初は慣れるまで若干違和感がありました。また、国連組織という性格上、意思決定までに大変時間がかかりイライラしたことは数多くありました。まあ、これらは苦労した点というより、国連という大きな組織の中での仕事の進め方を学んだといように肯定的にとらえることもできると思っています。
5.これまでの職務経験がUNVでの仕事に生かされたことは何ですか?
UNVに派遣される前に、青年海外協力隊、民間企業勤務、大学院留学を含め、国内・海外での生活・勤務を経験していましたので、途上国・異文化の中で働く・生活するということには、始めから全く違和感はありませんでした。これまでの経験がUNVでの仕事に生かされた点は、まずは専門分野(都市・地域計画、居住地計画、生活基盤インフラ整備等)でのこれまでの経験と蓄積が、UNDP(PPPUE)での業務を遂行する上で生かされたことは言うまでもありませんが、それと同時に、プロクラムコーディネーターという立場で、多くのプロジェクトの進捗管理を行っていく上での、また、UNDP内部での折衝・調整等、ゼネラリストとしての管理・交渉能力にも、これまでのさまざまな経験が生かされたと思っています。
どちらかといえば、これまでは現場で自分の手を動かして仕事をする(協力隊・コンサルタント)ということが多かったので、国際機関という立場の中でプログラムを運営・管理していくという、違った視点から開発援助に関わることになりましたが、業務を行う上での基本的な考え方や、物事の進め方は、これまでの経験の中で培ったものを、十分に適用することが可能だと感じました。
6.これからUNVを目指す人に助言等あれば。
UNVにはさまざまな職種や、配属機関があります。国際機関に配属される場合が多いのでしょうが、その中でも、地域を統括する事務所、各国事務所、そしてプロジェクトサイト等、課された任務や勤務形態は千差万別です。まずは、自分の専門・興味分野、めざす将来像を持ち、その実現のためのキャリアプランを思い描くことが第一歩だと思います。
その中で、国際機関を目指す方であれば、正式なインターナショナルポストを得ることが難しい現状の中、UNVを通して経験を積むということは、キャリアパスの中の一つの選択肢となるでしょう。まずは目指す組織の中に入って知識、見識、ネットワークを広げることで、将来の可能性につながっていくと思います。
また、私の場合のように過去に協力隊や民間企業等で途上国開発に携わったことがある方々にとっても、国際機関という組織に身を置くことにより、違った角度から国際協力を考える機会、各国の政策レベルで開発協力に携わる機会、また開発援助上流部での政策形成プロセスに触れる機会等、これまでに経験のできなかった業務に従事することにより、専門分野での知識に加え、交渉・調整能力や、見識・思考の幅は確実に広がると思います。UNVといえども、職場に入れば他の国連正規スタッフと同じように仕事を任されることになるので、ミッドキャリアの方々にとってもやりがいのあるポストです。ただ、私の場合も含め30代半ばでのUNV参加となると、収入面での不安が残るかと思いますが、私の周りにも家族一緒に赴任しUNVとして勤務されている方もいましたし、赴任地にもよるとかとは思いますが、支給される生活費で家族を扶養することは十分可能です。
7.UNV後の計画について、もしよければ教えてください。
今後も国際協力に寄与していきたいと思っています。どのような立場・組織の中で関わっていくかについては、UNVでの経験を含め判断していきたいと思っています。短期的には、この後エチオピアで実施されているJICAの技術協力プロジェクトへ1年間の予定で赴任します。UNDPでは、出張・オフィスワークが業務の中心だったのですが、次は実際のプロジェクト現場で現地の方々と一緒に働きながら、国際協力について考えてみたいと思っています。
(2004年9月)