山内 珠比さん:グアテマラ MINUGUA (平和構築)

山内珠比さん 
グアテマラ MINUGUA
国連グァテマラ和平検証ミッション 配属

1.UNVに参加されたきっかけ、経緯についてお話いただけますか。

途上国の問題や国際関係に関心を持ったのは、大学時代からです。その頃は中南米の累積債務や債務危機の問題が顕在化していたため、その分析のため国際経済論などが盛んに議論され私も興味を持ち勉強しました。 大学卒業後、電気メーカーに就職しましたが、途上国の開発や国際協力に関わりたいという気持ちは持ちつづけ、会社の中でも希望してODAに関わる案件の営業に携わりました。

でもインフラ整備中心の援助に疑問をもち、本当に貧困層に裨益するような援助について勉強したいという思いが強くなっていったのです。そのため8年務めた後、退職を決心し、英国サセックス大学大学院(IDS)で2年間開発学を学び修士号を取得しました。その後は、先輩の紹介で、NYのUNDP本部の人間開発報告書室でインターンを経て短期の契約により勤務していましたが、途上国のフィールドを知りたいと思っていたところ、同僚からグアテマラでUNVを募集しているということを聞いて応募し、派遣がきまりました。UNVについては、大学院の友人から、普通の国際機関などと違って現地の人々と接触する機会が多い仕事だと聞いていたこともあり、以前から興味をもっていました。

2.グアテマラでのUNVとしての主な仕事の内容は?

グアテマラでは、1996年に結ばれた和平協定の検証とともにその履行を促すための政策的助言、技術支援を行うことを目指して設置された「国連グアテマラ和平検証団(略称MINUGUA)」のもとで勤務しました。 初めの2年は、首都にある本部で、12ある和平協定の中で「社会経済的側面と農業状況に関する協定」を担当する社会政策チームに属し、その中でも特に保健分野の担当となりました。全国10箇所以上に散らばる地方事務所から集められた情報や、政府機関から得た情報、また国際援助機関等からの情報を集め、和平協定の履行状況についてのモニターをするとともにそれをリポートにまとめることが主な仕事でした。それらの報告は、国連事務総長が毎年出すグアテマラに関する報告書の元となるものです。国連の検証団の業務は、これらの報告のほか、政策的助言を行なうこと、技術支援などが挙げられます。

また最後の一年は、グアテマラの北部にある地方事務所で、社会政策分野(教育、保健)、社会参加といった分野でのモニターや政策的助言に係る業務を行ないました。 政府機関の役人も、我々の存在をうまく使って自分達の問題解決に役立てようという意図もあり、情報開示にも積極的でしたし、こちらの助言も取り入れてくれました。このためMINUGUAがその本来はたすべき役割がよりうまく地方では機能していたと思います。その意味で地方での一年は非常に充実したものだったと思います。逆に中央政府レベルでは、政策決定が自分達が接触する人たちとは違うレベルで決められてしまうことにより、情報の入手に時間がかかり、なかなか政策的助言も取り入れらないことがありました。 またその期間、当地方では農民の土地紛争のためのデモが多く発生し、そのたびに事務所職員が総動員で、警察、司法機関へその対応に係る助言のため現場へ駆けつけました。

3.UNVとして参加して良かったと思うことは?

MINUGUAには、当時世界で一番UNVが多い時期があったほど、非常に多くのUNVが活動していました。そのため、UNV同士あるいは、他の職員とも横のつながりが非常に強く、団結力があり、また色々なことに関して風通しがよく、気持ちよく仕事ができました。

また、紛争後の国を立て直すことを目的とした包括的な和平協定の履行状況を報告するMINUGUAの業務の性質上、政府はMINUGUAに対しあらゆる情報を開示する義務があり、そのため多分野にわたるMINUGUAの職員は公共政策、司法、人権などの情報に即座にアクセスできました。そしてMINUGUA内で得られた情報はそのほとんどが職員、UNVにも共有されました。こうした情報を通じ、その国の問題の全体の構造が見えてくる。この情報の幅広さはなかなか他の開発援助機関では得られないことではないかと思います。 このように中米の小国ではありますが、一国の政策の状況を網羅してみることができたことは非常に勉強になったと思います。

また特に最後の1年間は、地方事務所での仕事となりましたが、そこでは実際に住民の方からの人権侵害などの訴えのための窓口ももうけており、当番制でその訴えを直接聞く機会がもて、人々の抱える問題を直接その人たちから聞くことができたことも大変貴重な経験でした。農民のデモや集会への現場での対応なども人々の問題を直接聞き、解決策を考えることにより肌身で感ずることができた経験で、その後の仕事での糧になっています。

4.UNVで活動中一番苦労した点

一番苦労したのは語学です。グアテマラでは国連の中でもコミュニケーションは全てスペイン語で行なわれていました。スペイン語は大学時代に勉強していましたが、一国の政策に関わるような内容のことを議論し、説明したりするのにはかなりのレベルの語学力が必要で、ハンディを感じたことがありました。

5.現在の仕事、あるいはご自身の進路との関わりは?

現在は、JICAよりタンザニアの開発政策である貧困削減戦略政策(PRSP)の進捗状況をモニタリングする貧困モニタリングに係る企画調整員として同国に派遣されています。紛争後の和平状況の検証や基盤作りの次にくるべきなのは、やはり長期的視野にたった貧困対策などの開発努力だと思っていましたし、開発を勉強してきたので、そちらの分野に戻りたいという気持ちもありました。地域は違いますが、現在の業務はその意味で前回行なっていた内容の延長上にあると思います。またMINUGUAの業務の中で、和平協定に掲げられた政策の履行状況を検証することは現在のPRSPという国の開発政策のモニタリングと重なるものです。また関連援助機関に和平協定履行のための協力(援助協調)を促すことにも携わっていました。これも現在の業務につながっています。

6.UNVを目指す人たちに何かアドヴァイス等があれば。

やはりある程度自分の専門分野というべきものを持っていたほうがよいと思います。また語学は磨いておくことにこしたことはありません。UNVは、チャレンジができる空間が与えられるという意味で、自分にとっても良い経験になりますし、国際機関や開発の世界を目指す方の登竜門としてはよいと思います。

※なお、山内さんはグアテマラでの経験から、「グアテマラ和平プロセスと今後の課題」と題した論文を書き、それがアジ研「ワールドトレンド」第94号 2003年7月に掲載されています。