北嶋 信雅さん:サモア

世界で活躍する日本人国連ボランティアからの現地報告(2)

UNV プログラム・オフィサーとして、活躍している国連ボランティアの北嶋信雅さんからの現地報告を紹介します。北嶋さんは、日本政府の財政支援の下、サモアに派遣され、南太平洋の4つの島嶼国のUNVプログラムの管理・運営に携わっています。
(写真)ファシトゥタイ村の、GEF・SGP(地球環境ファシリティー・小規模無償プログラム)のモニタリング。リチャード・クライトン(写真右端)はSGPを担当するサモア人の優秀な国連ボランティア ©UNV

サモアについて

サモアに行くことになった際に何人かの方に言われました。「そう、それはアフリカのどこなの?」残念ながらサモアはアフリカではなく南太平洋の小さな島国です。南にニュージーランド、北にはハワイ、少し西に行くとフィジー、その先にはオーストラリアがあります。18万人程の人口は主にサバイイとウポルという2つの島に住んでいて気候は一年中夏で気温が毎日最高30度前後、主な産業としては農業・漁業・観光業等が挙げられます。宗教はほとんどの人がキリスト教で週末に教会に行くことはすべてに優先されるという信心深いお国柄です。
(写真)サモアにおけるボランティア活動について地元テレビ局のインタビューに答える ©UNV

サモアの生活

サモア人は人懐っこく街を歩いており、車に乗っていても多くの見知らぬ人が気軽に挨拶してくれます。代表的な食事はウムと呼ばれる豚1匹と野菜の蒸し焼きで結婚式や政府の公式行事などにもいつも登場します。凶悪な犯罪や政情不安はなく国連の「セキュリティ・フェイズ」(安全基準)は建国以来50年間ゼロ(問題なし)のままです。私は初めて海外任地に妻と2人の子供を帯同したのですが今のところ大きな治安や健康上の問題もなく、おおらかなパシフィックの人々に囲まれて楽しく暮らしています。

国連ボランティアとしての仕事

私の肩書きはUNVプログラム・オフィサーというものでサモア・トケラウ・ニウエ・クック諸島におけるUNVの活動全般に責任を持っています。サモアにあるUNDP/UNVの事務所は、「マルチ・カントリー・オフィス」と呼ばれるものでサモアだけではなく太平洋州の他の小さな国々の活動にも責任があります。正直ここに来るまでトケラウやニウエという国については知りませんでした。いずれも人口が1500人程度の小さな国です。サモアは他の国のように国連ボランティアが何百人もいるということはなく、ボランティアの人数は私の任期中最大7、最小は1すなわち私1人でした。このような小世帯ですのでプログラム・オフィサーはいわゆる何でも屋的な面が強いです。新しく来たボランティアとともに新居を探したり、オフィスをセットしたり、イベントでTシャツを配ったり、なぜか小学生とビヨンセの歌を歌ったりもしました。

一方で国連カントリーチームの一員として他の国連機関の代表と共に政策協議への参加やUNDAF(国連開発援助枠組み)へのUNVからの提言を行ないました。UNDAFは政策文書としては非常に高次でありボランティア活動については優先順位を考慮すると落とされがちなため様々な論拠を駆使しながら出来るだけ多くの内容が取り上げられるように苦労もしました。

日本の関西学院大学からは「国連学生ボランティア」と呼ばれる学生の方々の受け入れを行いました。これは大学とUNVが覚書を交わし学生を途上国のフィールドで受け入れるものです。この2年で5人の学生の受け入れを行い、彼らはそれぞれUNDP、ユネスコ等の職場で重要な仕事をしてくれました。彼らの仕事ぶりを見ながら自分の大学生時代を鑑みると今の大学生は大人だなと反省させられることが多いです。これらの「国連学生ボランティア」の方々は任期を終えた後、昨今の就職状況が難しい中皆それぞれ一流企業に就職されています。サモアで学んだことが役立っているといいなと思うと同時に、いつか優秀な若者が国連に戻ってきてくれるだろうかとも考えます。関西学院大学国連学生ボランティアについては、こちらのリンクもご参照下さい。

UNVサモアでは独自のプログラムを行うだけではなく国のボランティアに関する政策・提言・啓発活動などに関しても積極的に進めています。12月5日の国際ボランティアデーはその際たるものでサモアでは毎年多くのボランティアが集まってボランティアの価値を再認識し同時に海岸の清掃・公園の遊具の設置など様々なボランティア活動を共に行います。また昨年は「ボランティア国際年」10周年(IYV+10)ということで、サモアで人気の7人制ラグビーの国際大会に合わせてサモア・ラグビー協会とミレニアム開発目標(MDGs)についてのイベントも行いました。また東日本大震災に当たっては現地赤十字やクリケット協会と協力してチャリティイベントを行いました。これらの活動に関してはYouTube(英語)でご覧いただけます。

最後に私達のチームの仕事を一つ紹介させて下さい。太平洋の島々は気候変動に対するリスクに対して比較的脆弱な位置にあり、例えば前述したトケラウは最も高い位置でも海抜26メートルしかありません。気候変動に伴う海水面の上昇が進めば国自体がなくなってしまいます。これは一例ですが太平洋州の国連の活動は環境に関するものと切っても切れないものです。

リオ+20が開催される今年は特に環境関連の議論が多く、UNDPで働いているスペイン人国連ボランティア、マルタ・モネオさんは気候変動専門家として30億円近い規模の環境関連のプログラムの運営及び助言に忙しい毎日です。国連ボランティアは「ボランティア」という肩書きではありますが実際の仕事は正職員に非常に近く、またそれだけの大きな仕事が任されるやりがいのある仕事でもあります。実際彼女はボランティアなのですが非常に優秀なので多くのパートナー団体などから引き抜きの話があるそうです。
(写真)MDGsファンデーで記念のTシャツを配布。「一人1枚しかあげません!」と説明に苦労しました ©UNV

国連ボランティアに興味を持っている方々に一言

よく「国連で仕事するには英語力が足りない」「仕事内容が難しすぎる」「修士号がないので・・・」などというお言葉を頂くのですが、ご興味のある方はあまりためらわずにどんどん登録さし、国連のさまざまなイベントにご参加いただければと思います。そこで働かれているのは普通の人々ですし、国連はさまざまなバックグラウンドの人々が集まってさまざまな仕事をしていますので皆さんの経歴に合う職場もきっとあると思います。私自身も以前ウエイター・倉庫の荷捌き、映画会社職員など全く国際協力に関係のない仕事をしていました、そしてそれらの職場で得た経験は今日の仕事に大変役立っています。ぜひ少しだけ勇気を持って「はじめの一歩」を踏み出してみて下さい。

Profile ‐‐‐‐‐‐‐‐

北嶋 信雅(きたじま のぶまさ)
UNVプログラム・オフィサー
UNDPサモア・マルチカントリーオフィス

95年成蹊大学文学部文化学科卒、民間企業2社にて日本・アメリカ・ドイツで勤務の後西イングランド大学ブリストル校にて2000年に経済学修士取得(専門:国際ビジネス経済)、ACT2003においてNGO側事務局としてTICAD IIIの関連業務を行った後04-05年アソシエート・エキスパートとしてILO南アジア事務所(インド)において技術担当官の業務を行う(担当:社会保護)、05年より10年まで日本生協連にて保健・福祉及び医療協同組合に関する国際担当、10年より12年まで現職