漆畑 ひとみさん:トリニダード・トバゴ共和国

世界で活躍する日本人国連ボランティアからの現地報告(8)

今月の日本人国連ボランティアの紹介は、国連ボランティア計画(UNV)トリニダード・トバゴ事務所でUNVプログラム・オフィサーとして活躍する漆畑ひとみさんです。以下、漆畑さんからの報告を紹介します。

(写真)アシスタントと共に国内NGOが開催した国際ボランティアデーのイベントに参加している様子©Urushihata

トリニダード・トバゴ共和国について

トリニダード・トバゴ共和国は、カリブ海西インド諸島に位置するトリニダード島とトバゴ島の2島と属島からなる共和国国家です。熱帯性海洋気候で、気温は年間平均30度前後、西インド諸島では唯一豊かな石油・天然ガス資源に恵まれ、国の経済の中心となっています。千葉県よりやや大きい土地に、アフリカ系とインド系、続いて混血、ヨーロッパ系、中国系その他の国民135.1万人が住んでいます。公用語は英語ですが、スペイン語やフランス語、ヒンディー語の影響を強く受けた多人種国家となっています。首都ポートオブスペインで毎年開催されているカーニバルは、多くの国民が心待ちにする年間行事であり、世界の三大カーニバルに数えられています。その他トリニダード発祥である音楽、カリプソやソカ、打楽器スティールパンに魅了され、日本からも毎年大勢の参加者や観光客が訪れます。

トリニダード・トバゴの生活

トリニダード・トバゴは所得水準が高く、特に近年の著しい経済成長から2008年には国連開発計画(UNDP)の被援助国リストから、2011年には開発援助委員会(DAC)援助受取国・地域リストから卒業しています。一方、急速な経済及び社会成長に伴う社会問題が深刻化しており、特に社会開発分野への投資不足や社会のセーフティ・ネットの不備等から生じる貧困や国内所得格差問題は、様々な社会問題を助長しております。加速する暴力やギャング文化の蔓延は1日1件という高い殺人事件発生率にも象徴され、治安悪化の主要な原因となっています。また、環境問題も深刻化しています。環境破壊やごみ問題は、生活環境悪化に直結し、看過できないのが現状です。

国連ボランティアとしての仕事

私はUNVプログラム・オフィサーとして、トリニダード・トバゴ共和国、そしてUNDPトリニダード・トバゴ事務所管轄下のスリナム共和国、アルバ、キュラソー、シント・マールテン島における国連ボランティア計画(UNV)の活動全般に責任があります。これらの地域で、ボランティア業務の要請開拓、派遣諸手続き、広報等、UNVに関わるあらゆる業務を行っています。また、2013年6月より、UNVトリニダート・トバゴ事務所は、カリブ広域事務所として発展する運びとなり、上記の国に併せて、キューバ共和国、ジャマイカ、バルバドス、東カリブ諸国機構加盟国、ガイアナ共和国も管轄下となりました。このため、今後は新規国における各国連機関及び各省庁とのパートナーシップの構築や要請開拓が急務となり、初年度である今年はジャマイカとの関係強化に努める予定で調整中です。

主な活動例として、UNV広報及びボランティア普及活動が挙げられますが、様々なイベントの企画及び実施に携わっています。トリニダード・トバゴでは近年、大雨による洪水被害が慢性化しており、コミュニティ防災能力強化が急務となっています。昨年12月の国際ボランティアデーでは、トリニダード・トバゴ政府防災機関と共に、2012年に結成された「市民災害ボランティア」80人に対して災害訓練を実施し、災害支援ボランティアネットワークの強化に努めました。今年7月18日にはUNDPと協力し、国内のボランティア意識向上のため、孤児院の修復作業を実施しました。このようなイベントを通じて、日々トリニダード・トバゴ国内におけるボランティア意識の向上に努めています。また、政府や国内ボランティア団体が実施するイベントへも積極的に参加し、国内ボランティアネットワークの構築・促進にも尽力しています。その他活動の詳細はUNVトリニダード・トバコ事務所の公式フェイスブックでも随時紹介していますので是非ご覧ください。

(写真)2012年12月5日の国際ボランティアデーの日に政府防災機関、市民災害ボランティアと共に©Urushihata

カリブ地域における環境活動

最後に、今後着手予定のUNVプロジェクトについて取り上げたいと思います。前述の通り、著しい経済成長に伴い、トリニダート・トバゴを含むカリブ諸国においては、ごみの排出量減少及び大量生産・大量消費の使い捨て社会からの脱却が共通の緊急課題となっています。また、カリブ海一帯は絶滅危惧種として認定されているオサガメを始めとするウミガメの生育地域として広く知られており、貴重な観光資源となっています。しかし、ウミガメがプラスティックを誤飲して死亡する事故も頻発しており、緊急の対策が望まれています。UNVは、「UNV GOES GREEN!」をスローガンに環境活動を展開していく予定です。また、2014年は、日本・カリコム(カリブ共同体)事務レベル協議開始20周年の年であるとともに、日本とジャマイカ及びトリニダード・トバゴとの国交樹立50周年にもあたり、日本・カリブ交流年となっています。このことから、カリブ諸国でボランティア活動を展開する青年海外協力隊とも協力して楽しいイベントが出来ないかと模索しています。私はいつも活動の中心に「FUN(楽しむ)」というキーワードを入れています。みんなで楽しみながら行うことで、持続可能な活動ができるというのが自分の信条です。まずは皆で一緒に楽しくボランティア活動からの環境運動を推進したいと思います。

(写真)トバゴ議会と今後の開発支援の方向性を協議後、UNDPの同僚とトバゴ議会議長と共に©Urushihata

国連ボランティアに興味を持っている方々に一言

国連ボランティアはまず「善意のプロ集団」だと思います。私の管理するボランティアの中には元裁判官や弁護士の方もいますし、過去には医師100人以上がこの地に派遣されていました。また同時に国連ボランティアは、若者に開発援助の現場経験を提供する貴重な場としてユースボランティア事業にも力を入れています。興味のある皆さん、是非自信を持って応募してみてください。

Profile ———————

漆畑ひとみ(うるしはた ひとみ)
米国ハワイパシフィック大学にて国際関係論学士取得後、青年海外協力隊員としてバングラデシュ赴任。英国ブラッドフォード大学院にて平和学修士取得後、在エチオピア日本国大使館草の根人間の安全保障業務経験を経て、2012年9月より現職。